短歌8


生きていた夏に呪文が溶けていく だけど火なんて出ないよ、今は

カーテンで月を遮る 稲妻のように過ぎてくサンダル日和

ある夢の″魔法はまだ″の先がまだ燃えぬようにと吹き消す息の

″二回目はアリスのように″永遠は絵本の端へ発つ道のりか

書き割りの世界、文(ふみ)に憑くものが全てでいいよと云うオノマトペ

まばたきも雪もひとしく積もれり、と独り正しく云うものだから

大人たちメンデルス・ロウの例外で生き足りないことだけを教えて

言の葉がアイスバーンの瘢痕へ残光めいて沈む夜(よ)だった

「生き死にが自由だなんて言わないで」嵐の中で咲うアルニカ

やり直す気力も無いと死ぬのちのファイアオパール、トカゲの尻尾

デカダンスとは絵日記の前の日か ソーダの中で目が合う気泡

とこしえに朽ちぬは枯れぬ花でなく駒を持つ手の尽きぬにあると

ホイップの泡でここまで来たのだろ 誰よりあとの安堵の曇(くもり)

終わる日のそのときまでを匙ひとつ分だけ飲んでくれますか、今

寝息には適さぬ夜に鳴く歌があなたわたしのリポグラムでも

眠らないハイファンタジー、次の駅から来た蝶と比翼の春は

たちまちのどんな火薬の夢よりも外に在るまま、水筒はまだ

欲しいのはずっと夜だと思うからいつか見せてねキャロットジュース


予告状なんて、と言ったその闇の枝垂れ樹木の禍福の白さ

変身と同じ理由に出会えたら雲の下から続くのだ、また

歌詞のない、もう無いと言う人の無い、こわばりだけのある朝だった

頷けば遡上でなくとも帆を上げてどこかで終わるビー玉でしょう

肋骨の空洞めいた鳥籠が溶けゆく夜をしたためている

灰色のわずらいめいたフィルムから焦げたサーカス盗み出せたら

単三の電池枕で見た夢が未来のようで、昔のようで

inserted by FC2 system